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那須の夜

2019-03-13

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晴れた冬の夜。窓の闇に星が瞬いて、高原が冷たく沈んでいる。

ホテルのロビーには、夕餉をすませた泊まり客が何組も集まり、ベロア調の椅子に深く腰を下ろしてグラスで唇を濡らしながら、僕の知らない英語の歌を口ずさんでいる。チェックインの時には気づかなかったグランドピアノとドラムセットがスポットライトを浴びて、その前でマイクスタンドに向かい、みんなよりも少し上手に下唇を噛んで、ギターを弾きながらloveと叫んでいる男の人は、薄い髪に白いものが混じっている。

僕の隣にはパパが座って、ひとつ椅子を挟んで、その横にママ。そして、丸いガラステーブルの上には、グラスが三つ。アルコールが苦手なママは、僕と同じグラスに、甘いオレンジジュースを入れている。それよりも小さな、お皿を返したようなグラスに、もっと濃い橙色の液体を入れたパパは、そのグラスを元につけたまま、ゆっくり傾けては喉を鳴らして、また傾ける。

まだ出入りする人が居るみたいで、時々、開かれたドアから足下に冬の夜が風になって、素足の肌に触れていく。そのたび、パパと顔を見合わせるけど、パパは口元をゆるめて笑うだけで、またテーブルからグラスを持ち上げて、ドラムの叩く音に合わせるように、立てたつま先を上下に踊らせ始める。食前酒だけで頬を赤くしたママが、そんなパパの横顔に、目を細めている。パパとママは、僕の知らない時を思い出しているみたい。

テーブルの上で、キャンドルライトが揺らめき、二人の夜を窓に映していた。
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小さな冬旅~続き

2019-02-11

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空冷4ストロークのシングルエンジンは、シリンダーがフロントタイヤへと倒されていて、その様から水平型と呼ばれている。小排気量車に多いレイアウトは、シリンダーの立ち上がった垂直タイプに比べると、どこか心許なく、頼りなさげに映る。走行風が直接シリンダーヘッドを冷やすから、熱には強い。ただ、雨や泥も直に浴びることになって、エキパイを真下に取り回すことを思うと、悪路にはまったく不向きだ。血の通い始めた感覚を蹴り上げ、そのエンジンを唸らせてまた、冷めた陽光の中へと走り出す。

幾つ目かの「止まれ」に差し掛かると、対岸から、路線バスの見慣れたデザインが重たくカーブを切って橋を渡ってきた。その前にウインカーを光らせ、彼のHONDAが黄色い弧を描いてすべり込み、そのまま土手沿いを走り抜けていく。加速し続けるシートの上、薄くFRPで覆われたタンクを絞る両膝から再び、固く冷たい感覚が広がっていく。あとどのくらい、冬を切って走るだろうか・・・・・・。それでも次は、単車用を謳った防風パンツを買い足そうと、少しスロットルを戻した彼に合わせて・・・・・・GROMがゆっくりとクルージングを始めた。

小さな冬旅

2019-01-27

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ユニクロの暖パンも一時間だった。

風のない、穏やかに光る昼下がり。彼の非力な4ストロークは、125cc分の混合気を規則正しく吸い込んでは吐き出して、ひとつひとつ、土手の上のアスファルトにこぼして走る。時々、フロントタイヤの巻き上げた小砂利がフェンダーにぶつかっては、大きな音を響かせた。濃い水色の空はどこまでも高く、雲はひとつもない。

川の流れがまっすぐになって、刻まれていたビートが、連続した音に伸びていく。川面に陽光がすべり出して、突き出た両膝の頭が冷たくしびれてきた。わずかに返した右手が、陽を浴びた体にじわりとぬくもりを巡らせると、吐息がスモークシールドを曇らせて、二つの肩が小さくゆるんだ。

戻した視線の中、デジタルメーターに写し出されるのは緑色のNの文字と、左右の矢印だけ。すっかり干からびてしまったバッテリーは、セルモーターを回すどころか、蓄電池としての役目をまったく果たせていなかった。たまに人影が見えるだけで、対向はもちろん併走する車も、速度を規制する標識もないアスファルトを、感覚だけで駆け抜ける。

許される速度できちんと走れているか、それさえ彼にはわからなかった。川を渡る橋の袂に「止まれ」の標識が現れるときだけ、クラッチレバーが静かに引かれて、右足がアスファルトをかじり、速度がゼロになる。そして、つかの間、伸ばした脚に血の気が通い、小さなビートが彼の背中に聞こえ始める。

或る日の母子の事情

2019-01-24

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右から左から、ひっきりなしに行き交う車のわずかな隙間をめがけて、真っ赤なランドセルが押し出された。勢い駆け出した小さな体が、通りを渡り終わってすぐ、右手を高くかざしながら後ろを振り返る。その瞳には、冬の朝のやわらかな光を浴びて、肩の先に垂れた金色の髪が揺れていた。

見送られるはずがいつまでも立ち尽くして、ただ、その後ろ姿を見送る。目の前を車が通り過ぎていくたびに、その背中はだんだん遠く小さくなっていって・・・・・・路地を曲がるまで、一度も振り返らなかった。ようやくかざした右の掌を静かにすぼませて、ランドセルがゆっくりと歩き出した。

いつまでも見送った姿を彼女は、一度も忘れることはなかった。

懐古 6(完)

2018-12-28

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<12/20の続き>
L-1のボードを片手に笑うmori-sanが見えた。スターティンググリッドに収まるユージさんが見えた。そして、#2を着けた最新型の後ろに、旧式のYZ85LWをうまく走らせるkojimaさんの姿が見えた・・・・・・。

ラストラップ、第1コーナーを先に立ち上がり、痺れた右手でRMを倒さないように、丁寧にスロットルバルブを開いていく。内側にひん曲がったサイレンサーから細くこもった音を伸ばしながら、インフィールド最後の左コーナーを低く飛び出して、フープスへのアプローチを短く加速する。端からそうと決めていたインサイドにRM85Lのフロントタイヤを導き、車体をゆっくりと右に傾げるとすぐにまた、今度は左へと翻って、最初のコブへ斜めに入っていった。

耳に届くのは、聞き慣れたRMのエキゾーストノートだけ。あの高く乾いた排気音はもう、ヘルメット越しの耳に届いていなかった。

#2のYZの前でフィニッシュラインを越えて、テーブルトップの斜面を下りながら後ろを振り返る。シートの上、悔しそうな瞳をこちらに向けたままのカレがそこに居た。#99のCRF150RⅡとともにグリッドに収まるユージさん。次のクラスをシミュレートするその瞳の奥に、二人の勝負は届いていただろうか。そして、恨めしげに空から覗く、悪戯好きのアイツにも届いていただろうか・・・・・・。

「イチゴーマル、粗末にしたら化けて出られるよね。そうだよ、ryoにそう言っておいて」

パドックに帰って汗に濡れたVFX-Wをはぎ取って、ユージさんの言葉を思い出していると、背中から明るい恨み節が聞こえた気がした。しばらくココに戻ってくるのも・・・・・・悪くないか。

プロフィール

ナノハナ274

Author:ナノハナ274
ただいまモトクロスに夢中!

最近のTEAMナノハナ

そして、去るの弥生。誕生月、花粉との戦いも制して...少しは乗れるだろうか(笑)。

<これからの予定>
3/10(日):MOTO-X981
3/17(日):MX408
3/24(日):HERO'S at MXV
3/31(日):MX408

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