ばくだん 6(完)

2017-11-16

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「また柏崎に来なくちゃいけないね。そのときはまたここに寄らせてもらおうね」

咲満ちた桜や艶やかな錦繍、出会いたいのはいつも見事な景色とは限らない。風光明媚だけが旅情をかき立てるわけでもない。たまたま隣り合わせた地元の人と日々の話をただ重ねて、互いの暮らしぶりを語り合う。それも旅情。旅と人の情けが織りなす、かけがえのない刹那。keiの言うとおり、またこうして肴を分け合い、グラスの縁を合わせられたなら、幸せだ。

何も遠くに行くことはない。ただ、自分を知らない、見知らぬ人と話が弾めば、そこが桃源郷になっても不思議じゃない。今宵のばくだんは、よくできた代物だった。会計をすませて外に出ると、海から宵の風が吹いていた。美味い魚でもあれば、それでいいと歩いてきた夜道を、ふと思い出す。漆黒の闇には、丸く月が浮かび、笑う二人を照らしていた。
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ばくだん 5

2017-11-15

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<11/11の続き>
学生の自分、居酒屋チェーンでバイトしていた頃、「スタミナ納豆」というメニューがあった。鮪のブツと山芋の千切り、そしてかいわれ大根を散らしただけの粗末な一品で、きまって売り上げの良くない日に出される「まかない」として、よく覚えている。それとは違って、日本海に面した港町らしく、鮨ネタを包丁でていねいにほどいて、それをどんぶりに放り込んである。二人でその話をする前に、「これがばくだんですよ、おひとついかがです?」と、隣から声がした。きょとんとして振りかえるkeiに向かって、彼は続けた。

「こうして食べるんですよ。で、お尻の方を折り曲げてっと。これは大将に教えてもらったんですけどね。こうすれば中からこぼれてこないって」

慣れた手つきで「カヤク」を焼き海苔で包み込むと、出来立ての「ばくだん」がkeiの目の前にやってきた。「ありがとうございます」とお辞儀をしてすぐ、keiは大きな口を開いて、そのばくだんにかぶりついた。そして、やりとりを見ていた白髪頭の男性からkeiはもう一杯、ゆず酒をごちそうになった。

家族を連れて、茨城の牛久大仏を見に行ったことがあるという彼が、柏崎には温泉も見所も、何にもないと赤ら顔で笑い出す。でも、ここで、こうして呑めるのがうれしいのだとも言う。美味い魚に旨い酒があって、こうして人の情けにもふれあえて、笑って過ごせる。こうした店があるのだから、何もないわけじゃない。赤ら顔は、そう言いたげだった。

<つづく>

ばくだん 4

2017-11-11

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カウンターにたった一つ空いていた椅子に、ようやく独りの男が通されてきた。大将と軽く言葉を交わし、白髪頭の連れとも初めてではないらしい。何か大きな声でからかわれている。どうやら地元の青年、といっても30後半ぐらいの男性は、私たちにも会釈をすると、keiの隣に深々と腰を下ろした。やっぱりなじみの顔のようで、すぐに名札の下がった琥珀の瓶が運ばれてくる。そして、「ばくだんで」と、傍らに待つ仲居さんにではなく板長に声をかけると、空のグラスに氷を満たして、その上から琥珀をゆっくり落としていった。大将に、隣の三人組に、そして最後に私とkeiにグラスを傾けてから、静かに口をつけると、喉に琥珀を流していく・・・「ばくだんだって」と、メニューを開いたkeiの姿を、その瞳に映しながら。

<つづく>

ばくだん 3

2017-11-10

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真正面にいるはずのkeiに一瞥をくれただけで、大将がにぎやかに魚を捌いていく。そのお相手は、白髪頭の男性。口とは裏腹にていねいな包丁さばきを間近に眺めていると、さっきの仲居さんが注文を取りに来てくれた。サワーとゆず酒のロックと一緒に、地魚の天麩羅ともちろん刺身を頼んでから、もう一度「お品書き」に目を落とす。「越後牛のサーロイン」とは、割烹に似合わしくないお品も大いに興味のあるところだけれど、はじめての街、それも海の街とくれば、魚介を差し置いて牛の肉もない。お通しとグラスが二つやってきたところで、keiの快気祝いにと蟹の刺身を追加する。別の空気をまとったように、二人だけが別の世界から注文を続け、二人だけの話を続けていく。その見えない壁をじきに、「爆弾」が破ることになる。

<つづく>

ばくだん 2

2017-11-09

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<10/8の続き>
私の左にkei、その左にまた一つ席を空けて、女性二人が白髪頭の男性を囲んでいる。身内らしい物言いで、さっきから女二人が男を困らせ続けている。そして、仕事帰りの中間管理職風情の二人が、私の右隣で刺身をつつきながら、焼酎を注いだグラスを揺らしている。左も右もどちらの組も、淡い照明にとけ込んでいて、私とkeiは互いの椅子をすっと引き寄せた。

<つづく>

プロフィール

ナノハナ274

Author:ナノハナ274
ただいまモトクロスに熱中!

最近のTEAMナノハナ

フルサイズ、なかなかにデカくて、何かと大変だ。

<これからの予定>
11/23(木):MOTO-X981

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