ばくだん 5

2017-11-15

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<11/11の続き>
学生の自分、居酒屋チェーンでバイトしていた頃、「スタミナ納豆」というメニューがあった。鮪のブツと山芋の千切り、そしてかいわれ大根を散らしただけの粗末な一品で、きまって売り上げの良くない日に出される「まかない」として、よく覚えている。それとは違って、日本海に面した港町らしく、鮨ネタを包丁でていねいにほどいて、それをどんぶりに放り込んである。二人でその話をする前に、「これがばくだんですよ、おひとついかがです?」と、隣から声がした。きょとんとして振りかえるkeiに向かって、彼は続けた。

「こうして食べるんですよ。で、お尻の方を折り曲げてっと。これは大将に教えてもらったんですけどね。こうすれば中からこぼれてこないって」

慣れた手つきで「カヤク」を焼き海苔で包み込むと、出来立ての「ばくだん」がkeiの目の前にやってきた。「ありがとうございます」とお辞儀をしてすぐ、keiは大きな口を開いて、そのばくだんにかぶりついた。そして、やりとりを見ていた白髪頭の男性からkeiはもう一杯、ゆず酒をごちそうになった。

家族を連れて、茨城の牛久大仏を見に行ったことがあるという彼が、柏崎には温泉も見所も、何にもないと赤ら顔で笑い出す。でも、ここで、こうして呑めるのがうれしいのだとも言う。美味い魚に旨い酒があって、こうして人の情けにもふれあえて、笑って過ごせる。こうした店があるのだから、何もないわけじゃない。赤ら顔は、そう言いたげだった。

<つづく>

ばくだん 4

2017-11-11

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カウンターにたった一つ空いていた椅子に、ようやく独りの男が通されてきた。大将と軽く言葉を交わし、白髪頭の連れとも初めてではないらしい。何か大きな声でからかわれている。どうやら地元の青年、といっても30後半ぐらいの男性は、私たちにも会釈をすると、keiの隣に深々と腰を下ろした。やっぱりなじみの顔のようで、すぐに名札の下がった琥珀の瓶が運ばれてくる。そして、「ばくだんで」と、傍らに待つ仲居さんにではなく板長に声をかけると、空のグラスに氷を満たして、その上から琥珀をゆっくり落としていった。大将に、隣の三人組に、そして最後に私とkeiにグラスを傾けてから、静かに口をつけると、喉に琥珀を流していく・・・「ばくだんだって」と、メニューを開いたkeiの姿を、その瞳に映しながら。

<つづく>

ばくだん 3

2017-11-10

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真正面にいるはずのkeiに一瞥をくれただけで、大将がにぎやかに魚を捌いていく。そのお相手は、白髪頭の男性。口とは裏腹にていねいな包丁さばきを間近に眺めていると、さっきの仲居さんが注文を取りに来てくれた。サワーとゆず酒のロックと一緒に、地魚の天麩羅ともちろん刺身を頼んでから、もう一度「お品書き」に目を落とす。「越後牛のサーロイン」とは、割烹に似合わしくないお品も大いに興味のあるところだけれど、はじめての街、それも海の街とくれば、魚介を差し置いて牛の肉もない。お通しとグラスが二つやってきたところで、keiの快気祝いにと蟹の刺身を追加する。別の空気をまとったように、二人だけが別の世界から注文を続け、二人だけの話を続けていく。その見えない壁をじきに、「爆弾」が破ることになる。

<つづく>

ばくだん 2

2017-11-09

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<10/8の続き>
私の左にkei、その左にまた一つ席を空けて、女性二人が白髪頭の男性を囲んでいる。身内らしい物言いで、さっきから女二人が男を困らせ続けている。そして、仕事帰りの中間管理職風情の二人が、私の右隣で刺身をつつきながら、焼酎を注いだグラスを揺らしている。左も右もどちらの組も、淡い照明にとけ込んでいて、私とkeiは互いの椅子をすっと引き寄せた。

<つづく>

長い日曜日 6(完)

2017-10-11

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午前十時

NEXCOが思いついた新しいサービスのおかけで「一時退出」を許されて、どうにか腹を満たすことのできたBongoが十和田インターから再び、高速の本線へと戻っていく。それまで我慢していた右足は解かれて、失った時間をたぐり寄せようと追越車線を駆け抜ける。景色は急いで流れていって、見渡す限りに広がるリンゴの木々の彼方には、岩木山がおだやかに霞んでいた。

午前十一時

人に話せる速度まで十分に減速してから、本州最北の一般国道に合流する。港町へ。昔とは逆からたどる瞳にはただ、初めてのあの真夏の熱も映ってはこないし、ねぶた祭の賑わいも記憶の欠片すら見つけられない。あの頃と同じものがあるとすれば、それは2ストロークのマシンに乗っていることぐらい。もう誰もあの頃のように、単車で後を駆けてくることはない。

「青森にもベイブリッジができたんだよ」、青森出身で同じ職場だったいとちゃんに教えてもらった橋が、港の端に大きな弧を渡している。不二家のぺこちゃんにそっくりだった懐かしい同僚の顔を思い出してすぐ、広いだけの国道をナビゲーションの声に言われるまま、左へと折れていく。ひとつ陸橋を渡るとようやく、「青函フェリー」の看板を掲げる灰色のビルが見えてきた。

高速道路を使い、ほとんど半日を走りきってなお届かないところにひとり、ryoは待っている。

プロフィール

ナノハナ274

Author:ナノハナ274
ただいまモトクロスに夢中!

最近のTEAMナノハナ

季節もすすんで...125ccにも慣れてきました (^O^)v

<これからの予定>
4/21(土):MOTO-X981
4/29(日):軽井沢MP

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